初恋ディストリクト
 もしかして澤田君は私のこと好きじゃないのだろうか。やっぱり初恋の人の方がいいってことなんだ。

「そうだよね、即急すぎたよね」

「違うんだ。そうじゃなくて、ほら、前にもいったでしょ。僕は自分の事をカジモドだって」

 ああ、ノートルダムの梶本さん。

「カジモドには二つの意味があるんだ。ほぼ人間という不完全な意味と、白衣の主日といわれる宗教的な神聖な儀式をする日を表わしてるの。外面は不完全、で も内面は神聖でピュア。僕も、足を片方失った時、子供の時に見ていた『ノートルダムの鐘』を観直したんだ。その時に自分とカジモドが重なってさ、それでも 一生懸命生きていこうって思えるようになったんだ。だけど、僕はまだ成長してなくてしっかりしてないから、それで、簡単に好きだっていえなくて。ほら、やっぱり僕、普通の人と違うし」

 澤田君は自分の足のことでコンプレックスを抱いている。

 そんなの気にしなくていいのに。

 私は外見よりも澤田君の内面を見て好きになったのに。

 私もつい、初恋の人が気になり過ぎて、澤田君に私の事が好きと先に言ってほしかった。

 そんなのじゃだめなんだ。

 好きという気持ちは自分から伝えないと。

「澤田君、だったら私が言う。私は澤田君が――」

 折角いいところだったのに、また揺れた。

 しかも今度はいきなり足元を救われて、立っていられない。

 その時、澤田君が二度叫んだ。

「ああ! ああ!」
「何、どうしたの」

「壁が、壁が」
「壁?」

 澤田君は両サイドを交互に見て我を忘れたように取り乱している。

 私も、同じようにまず片方に視線を向けた。

「ああ! 嘘!」

 すぐさま反対側も見れば驚かずにはいられなかった。

「ああ!」

 私たちは一緒に悲鳴をあげながら、自然と寄り添いあう。

「壁が、あの白い壁がどっちもこっちに向かってきている!」

 何事にも動じない澤田君が恐ろしいとばかりに叫んでいた。
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