初恋ディストリクト
「それだけじゃない。意地悪な三人組が悪口を言いながら僕とすれ違ったんだ。その三人組の後ろには初恋の人がひとりで歩いていた。虐めにあっていても我慢強くじっと耐えている様子だった。でも目だけはするどくて、虐めていた三人組を睨んでいた」

 まさに私の行動を言い当てられてびっくりする。

「すると道端で立ち止まり辺りをキョロキョロした。待っていたものが自分の前に現れると、鞄からチュールを取り出して、寄って来た白と黒の猫に与えたんだ。その時、初恋の人は猫の名前を呼んだんだけど、僕にははっきりと聞き取れなかった。でも今ならわかる。フクちゃんって呼んでたんだ」

「えっ、それって私? でも……」

「そう、それが僕の一目惚れでもあり初恋だった。それから声を掛けるためのきっかけを作ろうと、僕も猫に餌を与えてたんだ。そして初恋の人に再びやっと会えたのに、あのお爺さんが邪魔をして僕は何もできなくなった。あの時、僕が声を掛けてたらってずっと思っていた」

「確かにそういう事があった。だけど、私は事故に遭ってないよ」

 澤田君の初恋の人は事故に遭って亡くなったって言ったのに、それじゃ矛盾する。

「あの日、栗原さんもバスに乗ろうとしていたっていったよね」

「うん」

「でも、用事ができたって、それはスマホでメールを送られてこなかった?」

「うん、その通りだけど」

 澤田君のいうことが全て私に当てはまるから驚きが隠せない。

「僕の初恋の人は、それを見て、一瞬引き返そうか迷ったんだ。でも引き返さなかった。だけど栗原さんは引き返した」

 澤田君は何をいいたいんだろう。

「この世界のことを僕はコピー、またはバックアップって言った。でも今思うと、ここが元になるオリジナルだったんだ。僕たちが居た世界がいくつもの分岐点に分かれたこの世界のコピーだったんだよ」

「何を言っているのか、まだわからない」

「栗原さんはメールを見たとき、引き返そうか迷わなかった?」

「うん、確かに迷った。あの日、クラスのみんなで集まる予定があったんだけど、虐められていた私にも声が掛かって、夏休みだったからみんな浮かれてて、これで流れが変わるんじゃないかって思ったんだ。その時貰ったメールはリミちゃんからだった。相談したい事があるから今から家に行っていいかって書いてあった。リミちゃんからの連絡は久しぶりだったから、それでどうしようかって考えて、あの時は悩んだ末にリミちゃんを優先したの。そしたら、暫くしてバス停で事故が起こってびっくりした。その時、クラスのみんなも私が連絡しないから事故に巻き込まれたと思ったみたいで、それ以来虐めがぴたって止んだ」

「そっか。そういうタイムラインに乗ったんだ」

「タイムライン?」

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