初恋ディストリクト
◇栗原智世の時間軸
昨日は諦めて帰っても、また朝を迎えると懲りずに商店街にやって来た。
春休み中、毎日同じ時間にここで澤田君を待つつもりでいる。
「あんたまた来たんかね」
婦人服店のお爺さんだ。
その後も何か言いたそうにしていたけど、何も言わずに奥に入っていった。
お爺さんに何か言われようと、学校が始まるまでは毎日通うつもりでいる。
もしかしたらと思うとじっとしていられない。
変化を期待して前方を注意深く見ていると、またお爺さんがやってきた。
「あんたさ、昨日も十一時前にはここにいたけど、その待ち人の男の子と連絡したらどうじゃい?」
「連絡先が分からなくて」
「でもここに来るかもしれないってことで、待ち伏せでもしてるのかい?」
ストーカーとでも思ったかもしれない。
でも説明もできなかったので「はい」とあっさり答えた。
「そっか、そんなに好きな子なんじゃな。まあしっかり頑張りなさい。ほれ」
お爺さんは私に和紙で包装された四角いものをふたつ差し出した。
「えっ?」
「遠慮しなくてもいい。隣の和菓子屋さんが、時々売れ残ったお菓子をくれるんじゃ。そのおすそ分けじゃ」
「あっ、ありがとうございます」
私がそれらを手にすると、最中かお饅頭か、中に餡子が入っている様子でずっしりと重たく感じた。
「まあ、気の済むまで好きな人を追いかけたらいい」
そう言ってまた奥へと引っ込んだ。
あのお爺さん、見かけは気難しそうだけど心の優しい人かもしれない。
手にしたふたつの四角い和菓子をじっと見つめる。
お爺さんの心遣いにほんわかしながら、もしかしてと澤田君に会えるような気になっていた。
その和菓子を持ちながら胸に抱いて澤田君に会いたいと強く願った。
昨日は諦めて帰っても、また朝を迎えると懲りずに商店街にやって来た。
春休み中、毎日同じ時間にここで澤田君を待つつもりでいる。
「あんたまた来たんかね」
婦人服店のお爺さんだ。
その後も何か言いたそうにしていたけど、何も言わずに奥に入っていった。
お爺さんに何か言われようと、学校が始まるまでは毎日通うつもりでいる。
もしかしたらと思うとじっとしていられない。
変化を期待して前方を注意深く見ていると、またお爺さんがやってきた。
「あんたさ、昨日も十一時前にはここにいたけど、その待ち人の男の子と連絡したらどうじゃい?」
「連絡先が分からなくて」
「でもここに来るかもしれないってことで、待ち伏せでもしてるのかい?」
ストーカーとでも思ったかもしれない。
でも説明もできなかったので「はい」とあっさり答えた。
「そっか、そんなに好きな子なんじゃな。まあしっかり頑張りなさい。ほれ」
お爺さんは私に和紙で包装された四角いものをふたつ差し出した。
「えっ?」
「遠慮しなくてもいい。隣の和菓子屋さんが、時々売れ残ったお菓子をくれるんじゃ。そのおすそ分けじゃ」
「あっ、ありがとうございます」
私がそれらを手にすると、最中かお饅頭か、中に餡子が入っている様子でずっしりと重たく感じた。
「まあ、気の済むまで好きな人を追いかけたらいい」
そう言ってまた奥へと引っ込んだ。
あのお爺さん、見かけは気難しそうだけど心の優しい人かもしれない。
手にしたふたつの四角い和菓子をじっと見つめる。
お爺さんの心遣いにほんわかしながら、もしかしてと澤田君に会えるような気になっていた。
その和菓子を持ちながら胸に抱いて澤田君に会いたいと強く願った。