初恋ディストリクト


 ◇澤田隼八の時間軸

 毎日ここで待っていても、あの時のようにはならなかった。

 だけど栗原さんは僕のいる世界では見えないだけで、違う世界線では婦人服店の隣に立っていると僕は確信している。

 この間お爺さんがデジャブーを感じた時、僕はひとつの可能性に後から気がついた。

 もしかしたら、おじいさんは栗原さんのいる世界線でも栗原さんに同じ事を言って和菓子をおすそ分けしたんじゃないだろうか。

 ぼくたちはあのお爺さんを媒介して、お互いの世界線で同じ時間に同じ行動をしている。

 その重なりがあのおじいさんの感じたデジャブーなのではないだろうか。

 そして包装された丸い和菓子をふたつもらったと思ったけど、後で見直したら四角に変化していた。

 僕の見間違えなのか、それとも栗原さんは四角い和菓子を受け取って、それが後から僕の持っていた丸い和菓子から修正されたのかもしれない。

 これもマンデラ効果として、お菓子がパラレルワールドを移動してしまい変更された可能性があるかもしれない。

 そうであってほしいと僕は強く願う。
< 82 / 101 >

この作品をシェア

pagetop