初恋ディストリクト
「狭いアパートだと思っていたんだけど、ひとりだと結構十分過ぎるものね」
ドアの前で、鍵を取り出しながら澤田君の母親は呟いた。
ドアを開け「入って」と言われて、私はそこで怖じ気着いてしまった。
「あの、澤田君のお母さん」
「沙耶子でいいわよ」
親しみを込めた笑顔。
私の母と年は変わらないだろうけど、母よりも若く見えた。
「沙耶子さん、あのその」
「遠慮することないわ。こうやって時が経っても隼八の友達が訪ねてきてもらえるのが嬉しい。あの子、男子校だったから、まさか女の子の友達がいるなんて思わなかったわ。あなたの名前はなんていうの?」
「あっ、すみません、申し送れました。栗原智世といいます」
「そう、智世さんね。さあ、あがって」
玄関に入るとそこはすぐダイニングキッチンになっていた。奥にはふたつの部屋がある2DKと呼ばれる間取りだ。
「お邪魔します」と私は家に上がった。
綺麗に整頓された清潔感があるけど、それがとても殺風景にも見えた。
最低限の必要なものしかないのだろう。
やかんに水を入れながら、沙耶子さんは言った。
「どうぞ奥に入って。隼八に会いに来てくれたんでしょ」
「失礼します」
そういって居間に使われている部屋に入っていくと、そこには白い布に包まれた四角い箱と、とても素敵に笑っている澤田君の写真が台の上に置かれているのがすぐに目に飛び込んだ。
私の知っている澤田君の顔よりも写真は少し幼い気がした。
やかんに火をかけた後、沙耶子さんも居間に入ってきた。
「未だにずっと手元に置いているの」
沙耶子さんはお線香を取りだしたので、私は遺骨の前に正座した。
火をつけたあと炎が収まると煙がでるそれを私に手渡してくれた。
それを香炉に差し私は手を合わせた。
そうはしても私の心中はとても複雑だ。
到底目の前のものが受けいれられない。
「隼八とはどこで知り合ったの?」
沙耶子さんは質問してくるけども、私はどう答えていいのかわからない。
「あの、その、澤田君がこんなことになってるなんて信じられなくて」
「私もそうなの。こんなに時間がたっても、いつかまた隼八がひょっこり戻ってくるんじゃないかって思うわ」
「澤田君は生きています!」
我慢できなくて私は叫んでしまった。
沙耶子さんはびっくりしていたけど、その意味をいいようにとってくれた。
「そうね、隼八は心の中で忘れなかったらそれは生きているってことなのかもしれないわね」
「いえ、違うんです。私、別の世界の澤田君に会いました。別の世界の澤田君は事故で片足を失ったけど、とても前向きに生きてたんです」
「……」
沙耶子さんはどう受け止めていいのかわからず、唖然としていた。
ドアの前で、鍵を取り出しながら澤田君の母親は呟いた。
ドアを開け「入って」と言われて、私はそこで怖じ気着いてしまった。
「あの、澤田君のお母さん」
「沙耶子でいいわよ」
親しみを込めた笑顔。
私の母と年は変わらないだろうけど、母よりも若く見えた。
「沙耶子さん、あのその」
「遠慮することないわ。こうやって時が経っても隼八の友達が訪ねてきてもらえるのが嬉しい。あの子、男子校だったから、まさか女の子の友達がいるなんて思わなかったわ。あなたの名前はなんていうの?」
「あっ、すみません、申し送れました。栗原智世といいます」
「そう、智世さんね。さあ、あがって」
玄関に入るとそこはすぐダイニングキッチンになっていた。奥にはふたつの部屋がある2DKと呼ばれる間取りだ。
「お邪魔します」と私は家に上がった。
綺麗に整頓された清潔感があるけど、それがとても殺風景にも見えた。
最低限の必要なものしかないのだろう。
やかんに水を入れながら、沙耶子さんは言った。
「どうぞ奥に入って。隼八に会いに来てくれたんでしょ」
「失礼します」
そういって居間に使われている部屋に入っていくと、そこには白い布に包まれた四角い箱と、とても素敵に笑っている澤田君の写真が台の上に置かれているのがすぐに目に飛び込んだ。
私の知っている澤田君の顔よりも写真は少し幼い気がした。
やかんに火をかけた後、沙耶子さんも居間に入ってきた。
「未だにずっと手元に置いているの」
沙耶子さんはお線香を取りだしたので、私は遺骨の前に正座した。
火をつけたあと炎が収まると煙がでるそれを私に手渡してくれた。
それを香炉に差し私は手を合わせた。
そうはしても私の心中はとても複雑だ。
到底目の前のものが受けいれられない。
「隼八とはどこで知り合ったの?」
沙耶子さんは質問してくるけども、私はどう答えていいのかわからない。
「あの、その、澤田君がこんなことになってるなんて信じられなくて」
「私もそうなの。こんなに時間がたっても、いつかまた隼八がひょっこり戻ってくるんじゃないかって思うわ」
「澤田君は生きています!」
我慢できなくて私は叫んでしまった。
沙耶子さんはびっくりしていたけど、その意味をいいようにとってくれた。
「そうね、隼八は心の中で忘れなかったらそれは生きているってことなのかもしれないわね」
「いえ、違うんです。私、別の世界の澤田君に会いました。別の世界の澤田君は事故で片足を失ったけど、とても前向きに生きてたんです」
「……」
沙耶子さんはどう受け止めていいのかわからず、唖然としていた。