夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 灰になり、短くなった煙草の火を灰皿で潰して消すと、彼は嶺奈を一瞥する。

「あなた、やっぱり変わってる」

「よく言われる」

 考えなしに、ここに来たせいで会話が続かない。

 嶺奈が口を閉ざすと、立花はあの日のことを訊ねてきた。
 
「正直聞いてもいいのか、迷ったんだけどさ。あの日。何があったの」

 思い出したくもないことを聞かれ、目蓋を閉じる。痛いくらいの強い雨粒と、雷鳴が、鮮明に蘇る。

 何が? 婚約者に捨てられた。

 そんなことを言っても、相手を困らせてしまうだけだ。

 口をつぐみ続ける彼女に、立花は言葉を続ける。
 
「答えたくないなら、もう聞かない。けど、あんな真似、二度として欲しくないって、俺は思う」

 率直な感想に嶺奈は、乾いた唇で答えた。

「婚約者に捨てられました。だから、私にはもう何も残ってない。空っぽなんです」

 ほら。返答に困ってる。
 言わなければ良かった。

 適当に嘘を言って誤魔化せば良かった。

 なんで、馬鹿正直に答えたんだろう。

 
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