夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 嶺奈の怒りの矛先は、亮介にではなく美緒に向いていた。

 二人の関係を壊したのは、間違いなく美緒本人なのに、どうして私達が苦しめられなければいけないのか。

 強気だった亮介が、曖昧な態度で誤魔化すようになって、変わってしまった亮介が許せなかった。

 貴方はもう私の知っている、貴方じゃない。
 
 私の亮介を返してよ──。

「もう……いい。これ以上は聞きたくない。私が……耐えられない」

 ──亮介の嘘つき。

 そう罵倒したいのに言えなかったのは、心の底から亮介を嫌いになれないからだ。決別出来ない自分の弱さにうんざりしてしまう。

 そもそも、私があの時、亮介の言葉を聞いて心が揺らがなければ、こんなことは起こりようもなかったはずだ。

「嶺奈」

 嶺奈の名を呼ぶ亮介の声は、もう彼女には届かない。

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