夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 二人でマンションに帰宅すると、彼は嶺奈を咎めるわけでもなく、身体を温めるように促した。

 シャワーを浴びて服を着替え終わると、リビングに向かう。まるで、あの日の出会いを再現したかのような既視感だった。

 良平さんに救われたのは、これで二回目で、何かある度に懲りずに雨に濡れる私を、彼は内心呆れ果てているに違いない。

「はい、ホットミルク。温まるよ」

 キッチンから二つのマグカップを手にして、彼は嶺奈の隣に腰掛けた。

 手渡されたカップを両手で包むように持つと、程よい温かさが手のひらに広がる。ミルクと蜂蜜の優しい香りが、鼻先を掠めた。

「……ありがとう」

 立花は彼女からの自発的な発言を待つように、煙草を取り出して火を点した。

 灰となって少しずつ短くなっていく煙草を見つめながら、嶺奈は思考する。

 沈黙が長引くほどに、言い出しづらくなると分かっているのに、言葉は思うように出てこない。

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