夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 そう言って、彼は嶺奈の左手の甲に軽く唇を落とした。──まるで、忠誠を誓うように。

「良平、さん……?」

「本気だから」

 あまりに突然のことで、嶺奈は返事をするのさえ忘れて、彼を見入ってしまう。

 本気って、まさか結婚のこと?
 
 一瞬、脳裏に横切った考えを否定して、冷静を保とうとする。

 私はどこまで、浅はかなのだろう。そんなわけはないのに、少し期待してしまう。

 けれど、嶺奈が保とうとした冷静さは、彼の言葉によって、すぐに崩れ去った。

「……本当は明日言う予定だったんだけど。まさか、嶺奈がこんなにも突発的に行動するとは思わなかったから、正直すごい焦った」

 嶺奈から遅くなるという連絡を受けたとき、彼は嫌な予感がして、帰宅後すぐに車を走らせたという。

 ──また君が泣いているような気がしたから。

 その予感は見事的中し、彼は嶺奈を連れ帰ったのだ。

 彼が必死になって、私を探し出してくれた理由を知り、自分勝手に行動したことを酷く悔やんだ。

 もし、あのまま亮介のもとへ行っていたら、こんな未来は永遠に訪れることはなかったはずだ。

< 107 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop