夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

「それとこれ、一度も着けてなかったから、気に入らないのかと思って、指輪も新しく用意したんだけど……」

「それは気に入らないんじゃなくて、失くしたくないから、大切に仕舞ってただけよ。……良平さんから、初めて貰ったものだから」

 最初は偽の婚約だけで満足だった。けれど、いつしか、それだけじゃ満たされなくなって、良平さんに惹かれ始めていたのだと気づいた。

 この指輪を着けることが出来なかったのは、その気持ちを認めるのが怖かったからだ。

 良平さんの言う、好きという言葉に確信が持てないまま、次に進むことを躊躇っていた。

「そっか。そう思ってくれてたなら嬉しい」

 彼はごく自然な動作で、嶺奈の左手薬指に指輪を着けて、微笑む。けれど、立花とは対照的に嶺奈の表情は翳りを見せていた。

 嬉しいはずなのに、どこか気が晴れないのは、私がまだ迷いを捨てきれないでいるからなのか。嶺奈は胸中に掠めた不安を吐露する。

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