夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 翌日。二人は仕事を終えた後、彼が予約しているという都内の高級レストランに向かった。

 クリスマスということもあり、街は色鮮やかなイルミネーションで飾られ、幸せそうな恋人達の姿で溢れていた。

 嶺奈は着なれないドレスを身にまとい、普段は使わない、ピンクベージュのルージュを唇に引いていた。

 彼の隣に並んで歩くだけで、こんなにも緊張しているのは、クリスマスという非日常のせいだ。

「やっぱり、嶺奈にはこういうドレスがよく似合うよ」

「良平さん、いつの間に用意してたの……」
 
 まさかドレスまで、用意しているとは思わず、嶺奈は呆れ気味に立花を見上げる。

 もし、私が断っていたら彼は、どうするつもりだったのか、少しだけ気にならないでもない。

「前に選んだドレスは嶺奈が勝手に決めたから。今度こそは俺が選びたいと思って、色んな店を一人で見て回って決めたんだ」

 良平さんがずっと根に持っていたのは、ドレスの事だったようで、自分のことのように自慢げに話す彼を見ていると、とても可愛く思えてしまう。

 彼曰く、悩みすぎてドレスを選ぶだけで、一週間も掛かったらしい。

 ということは、指輪を選ぶのには一体どれだけの時間が掛かったのか。想像すれば……聞くのが少し怖くなる。 
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