夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 その度に愛憎に心が支配され、亮介に当て付けのように私は『幸せ』だと言って、自分の傷を癒そうとしていたのだ。

 自分の行動が浅ましすぎて、嫌になる。

 普通なら関わりたくない人間性なのに、良平さんは私を憐れむこともなく、見捨てることをしなかった。

 だから、私はもう二度と彼を傷つけたくない。

「なら、どうして、もっと早くに言ってくれなかったの」

 涙を堪えて、震える声で疑問を投げ掛ける。

 良平さんの胸の内を知っていたなら、少なくとも、こんな醜態は何度も晒すことはなかったと思う。

 亮介の真実に、揺らぐこともなかったかもしれない。

「嶺奈が阿久津を捨て切れないでいるのが分かったから。いつか、あいつの所に戻るかもしれないって思ってたら、言えなかった」

 ──そしたら、嶺奈は迷うだろうから。

 その一言が、深く胸に突き刺さる。

 全部、全部分かっていて、知っていて、良平さんは自分の心を押し殺して、ずっと耐えていた。

 私を傷つけないように、自分だけを傷つけて。

「ごめんなさい……私」

 自分が許せない。あまりにも自分勝手だった。

「謝らないで。俺は嶺奈の悲しむ顔は、もう見たくないから。言うなら、ありがとうって言って」

「……ありがとう、良平さん」

「うん」

 この温もりは一生忘れることは出来ない。周りから大袈裟だと笑われたとしても、私には掛け替えのない大切な温もりだった。
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