夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「阿久津くん、ちょっと良いかな」
少し遅めの昼食を摂るために、社員食堂へ向かう途中で、亮介は課長に呼び止められた。
近場の空いている会議室に入ると、課長は周りに誰も居ないことを確認してから、手短に要件を告げる。
「急で悪いんだけど、来週から大阪に出張してくれないか」
「来週から、ですか」
亮介は課長の言葉を無意識に反芻する。
年明け早々に出張とは、取引先で何かトラブルでも有ったのだろうか。小さなミスが重なり、先方を怒らせてしまっては、元も子もない。
脳裏で様々なトラブルを想定して、対処法を巡らせる。しかし、亮介の考えは課長の次の言葉によって、無駄に終わった。
「それと出来れば、……美緒さんも一緒に行ってほしいんだ」
「……は? 美緒、ですか」
脈略のない発言に、亮介は戸惑いを隠せなかった。