夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 どうして、ここで美緒の話が出てくるのか。

 同じ会社に勤めているとはいえ、彼女は受付嬢だし、営業課とは無関係だ。

 しかも、最近は欠勤が多くなっている。けれど、周りが何も言えないのは、彼女が社長令嬢だからだろう。

 彼女には誰も逆らえない。きっと、そんな風に思われているはずだ。それを亮介は嫌というほど痛感している。
 
「俺もよく分からないんだが、上からそう伝えるように言われてな」

 課長の顔を見て、全てを察する。

 ああ、なんだ。俺に拒否権はないのか。

 なら、この突然の出張命令も、きっと美緒の差し金に違いない。

 彼女の名前を聞いた途端に、身体の内側が徐々に冷えていくのを感じた。

 俺は後何回、美緒に振り回されなければいけないのか。やっぱり同情などしないで、さっさと離婚するべきだったのか。

 今さら悔やんでも、後の祭りだった。

 これが社長命令ならば断ることなど、無論出来る筈がない。既に決定事項だ。

 亮介は不満を飲み込んで、冷静を保つと、課長の申し出を了承した。

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