夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 ホテルは二人で一部屋だった。

 これも亮介達が選んだ訳ではなく、美緒の父親が勝手に用意していたホテルだ。美緒曰く、普段から贔屓にしている高級ホテルのようだった。

 美緒のキャリーバッグを部屋の入り口近くに置き、亮介は振り返る。
 
「俺、夜は近場のネカフェで寝るから」

「え」

「嫌だろ。こんな男と居ても」

 見下ろした彼女の表情が、微かに揺れているのを、亮介は見ない振りをして誤魔化す。

 本当は自分が逃げたかっただけだ。彼女から。
 
 精神的に不安定になってしまった美緒を、可哀想に思うのは事実だ。だが、それが愛情に繋がるかと問われれば、答えに困る。

 この感情が何なのか。自分でも、よく解らずに、ずっと持て余し続けていた。
 
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