夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「……分かりました」
美緒は亮介を引き留めることもなく、了承する。
てっきり、一緒に居て欲しいと言うのかと思っていたから、少しだけ拍子抜けした。
美緒はキャリーバッグを部屋に移動させると、ソファに座り、携帯を取り出す。
亮介は再度、彼女に声を掛ける勇気は無かった。
美緒が頑なに口を閉ざすのは、彼女なりの拒絶の証か。
──亮介の好きなようにしていいわ。
不意に脳裏に再生された嶺奈の声。
嶺奈が全てを諦めたような顔で、会話の最後になると、口癖のようにいつも言っていた。
ああ、そうか。
美緒を見ていて、時々、苛立ちを覚えていたのは、嶺奈のあの時の仕草や表情が重なって見えたからか。
どうして、俺はいつも、相手にこんな顔をさせてしまうのだろう。
思い遣りが足りず、言葉足らずで、誤解させてしまうからなのか。
自覚はしているのに、その癖を未だに直せないでいるのは、俺が相手に対して甘えているからだ。
何も言わなくても、相手は解ってくれるはずだと。言わなければ、解らないことだってあるはずなのに。
この重苦しい空気に耐えられなくなり、亮介は足早に部屋から離れた。