夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「串カツ……」
タクシーを降りて、美緒は店の看板を見上げると、ぽつりと呟く。
そうだった。すっかり忘れていた。美緒は社長令嬢だ。彼女は普段から自炊をしないし、食事をするときは、決まって都内に在る有名店ばかりだった。
なら、こういう居酒屋のような雰囲気の場所は苦手かもしれない。
「悪い。庶民的で」
「いえ。初めてなので、少し楽しみです」
亮介の心配を余所に、彼女は嫌な顔をせずに微笑む。久し振りに彼女の笑った顔を見て、少しだけ、ほっとしてしまう。
店内に入ると店員の威勢のいい声が、鼓膜に響き渡った。
注文した品はすぐにカウンターテーブルに並べられ、美緒は運ばれて来た串カツを目の前に固まっていた。
「これは、どう食べるんですか」
「食べる前にタレにつける。で、二度付けは禁止。ほら、ここに書いてあるだろ」