夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

「君の苦しみも、悲しみも、怒りも全て。俺が受け止める。その傷を癒してあげる──」

 彼の甘い誘いに、嶺奈は無意識に頷く。

 そして、立花に促され、嶺奈はここに至るまでの経緯を話し始めた。

 亮介に浮気されたこと。相手はすでに妊娠していること。今年中に籍を入れて、式を挙げると伝えられたこと。

 自分の口から亮介のことを言う度に、胸が酷く痛んで、見えない傷口が開いていく。

 経緯自体はきっと、ありきたりな話で、浮気話なんて、そこら辺にゴロゴロと転がっている。

 私のことも、その中の一つに過ぎない。

「将来を約束しておきながら、相手は何食わぬ顔で、君に嘘をついていたのか」

 核心を突かれ、否定する気持ちも起きなかった。

「……復讐って、具体的にはどうするの」

 これ以上は、耐えられない。心が悲鳴をあげている。

 そう思った嶺奈は、話を逸らすことにした。

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