夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 嶺奈が立花と偽装結婚をするという契約を交わしてから、数日が経過していた。

 彼から毎日届くメッセージは、どれも他愛ない話ばかりで、少し楽しみにしている自分に嫌気が差す。

 私はまだ、彼のことを何も知らないのに。

 心を許してもいいのか。自問する。

 復讐の件だって、彼には一つも利益がない。

 交換条件を出されたのなら、私の気持ちも少しは納得したかもしれない。

 けれど、それらしい条件を彼は言わなかった。

 この数日の間に、それとなく聞いてみたものの、上手くはぐらかされてしまったのだ。

 私の猜疑心に、気付かない彼ではないはずなのに。

 今日は金曜日で、仕事を終えて帰宅したばかりの嶺奈は、携帯を確認する。

 昼に送信したメッセージの返事はまだ無くて、一抹の孤独を感じた。

 寂しいなんて感情を、彼に抱いては駄目だ。彼に依存しては駄目だ。

 駄目だと思えば思うほどに、何故か胸がチクりと痛んだ。

 それでも、自分の心に何度も言い聞かせると、嶺奈は携帯の電源を落として、独りバスルームに向かった。



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