夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 本当は、あなたからのメッセージを待ってた。普通の恋人なら言えたはずの言葉も、私は口にしてはいけない。

 浮わついている自分に気付き、距離を置こうとした。必要以上に近づきすぎるのは良くない。

 こうして自身を抑制しないと、未だ傷付き弱っている心は、少し優しくされるだけで、簡単にぐらついてしまう。

「そう。でも、今度からは電源切らないで。また君が……」

 言いかけて止める。
 彼はきっとこう言いたかったのだろう。

 ──君がまた馬鹿な真似をするんじゃないか、って。

 正直、そう思われても仕方ないとは思っていた。だから、嶺奈はあの日のように強気な自分を演じる。

「安心して。亮介を見返すまでは死なないから」

「そうじゃなくて……。ああ、もういい。今から会える? 今日休みだよね」

「会えなくはないですけど」

「なら、君の家まで迎えに行く。住所教えて」

「え? ここまで来るの?」

「うん。車で行くから、その間に準備しておいて」

 嶺奈の疑問に立花は淡々と答える。今まで無理強いをしなかった彼が、初めて強引さを見せた時だった。

 通話を終えた後、嶺奈は出掛ける為の準備を始めた。自宅まで迎えに来るとは言っても、そんなに時間はかからないはずだ。

 普段より薄めのメイクを施して、姿見の前に立ち尽くす。

 どんな服を着たらいいのか。迷ってしまった。別にデートをするわけじゃない。

 けれど、Tシャツにジーパンというのも、なんだか味気ない。

 散々迷った挙げ句、嶺奈は仕事用のブラウスに黒のタイトスカートにした。

 何処に向かうのかは知らないが、これならば、大抵の場所でも問題はないはずと、自分を納得させる。

 軽めの朝食を摂ろうとして、再び着信が入った。

『着いたんだけど、もう出られる? まだなら、車で待ってるけど』

「準備ならもう出来てるから、今出ます」

『分かった』

 淹れたばかりの紅茶を一口だけ飲んで、嶺奈は自宅を出た。
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