夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
約一時間掛けてたどり着いたのは、静寂に包まれた海辺だった。
時刻はお昼前だというのに、辺りに人の気配は見当たらない。
「綺麗でしょ。俺の秘密の場所」
車を降りて、海を眺める。
穏やかに寄せては返す波を見ていると、心が洗われていくようだった。
嶺奈は返事も忘れて、ゆっくりと砂浜を歩み始めた。
砂に沈んでいくパンプスのヒールに、煩わしさを感じた。
海に来るって知ってたら、スニーカーにしたのに。しかも、タイトスカートのせいで、余計に歩きづらい。
「靴脱いだら危ないよ。ガラス片とかあるかもしれないから」
「そうね。脱ぐのは止めておく」
いつの間にか、嶺奈の隣まで来ていた立花が、そっと彼女に声を掛ける。
「夕方になると、もっと綺麗なんだ。嶺奈が気に入ったなら、また、連れてきてあげる」
陽のある時間帯でこれほど綺麗なら、夕方はきっと想像を越えるくらいに、刹那的で綺麗に違いない。
「今日はありがとう。この場所に連れてきてくれて」
素直な気持ちが言葉となって零れた。
ずっと荒んでいた心が、癒された気がする。
しかし、立花は嶺奈とは対称的に、どこか躊躇った様子だった。そして、意を決したように口を開いた。
「……これから君は、辛い事実と向き合うことになるかもしれない。だから、これは俺からの罪滅ぼし」
「罪滅ぼしって、どういうこと?」
嶺奈にとって予想外の言葉だった。
罪滅ぼしは、罪を犯した人が使う言葉だ。
彼は私に何もしていない。
それなのに、どうしてこの言葉を使ったのか。疑問が消えない。
「今はまだ言えない」
──いずれ、分かるから。
彼の悲しそうな表情が、海辺という景色と相まって、余計に焼き付いて離れなかった。
時刻はお昼前だというのに、辺りに人の気配は見当たらない。
「綺麗でしょ。俺の秘密の場所」
車を降りて、海を眺める。
穏やかに寄せては返す波を見ていると、心が洗われていくようだった。
嶺奈は返事も忘れて、ゆっくりと砂浜を歩み始めた。
砂に沈んでいくパンプスのヒールに、煩わしさを感じた。
海に来るって知ってたら、スニーカーにしたのに。しかも、タイトスカートのせいで、余計に歩きづらい。
「靴脱いだら危ないよ。ガラス片とかあるかもしれないから」
「そうね。脱ぐのは止めておく」
いつの間にか、嶺奈の隣まで来ていた立花が、そっと彼女に声を掛ける。
「夕方になると、もっと綺麗なんだ。嶺奈が気に入ったなら、また、連れてきてあげる」
陽のある時間帯でこれほど綺麗なら、夕方はきっと想像を越えるくらいに、刹那的で綺麗に違いない。
「今日はありがとう。この場所に連れてきてくれて」
素直な気持ちが言葉となって零れた。
ずっと荒んでいた心が、癒された気がする。
しかし、立花は嶺奈とは対称的に、どこか躊躇った様子だった。そして、意を決したように口を開いた。
「……これから君は、辛い事実と向き合うことになるかもしれない。だから、これは俺からの罪滅ぼし」
「罪滅ぼしって、どういうこと?」
嶺奈にとって予想外の言葉だった。
罪滅ぼしは、罪を犯した人が使う言葉だ。
彼は私に何もしていない。
それなのに、どうしてこの言葉を使ったのか。疑問が消えない。
「今はまだ言えない」
──いずれ、分かるから。
彼の悲しそうな表情が、海辺という景色と相まって、余計に焼き付いて離れなかった。