夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 午後10時過ぎ、入浴を終えて、自身のベッドルームへ向かうと、タイミングを見計らったかのように携帯が着信する。

 最早、着信画面を見なくても、誰からの電話なのか、分かるようになってしまっていた。

 嶺奈は確認もせずに応答する。

 案の定、彼からの電話だった。

『お疲れさま。明日はどこか行きたい場所はある?』

 当たり前のように問い掛ける彼は、いつもと変わらない様子だった。

「…………」

 答えることが出来ずに、無言になってしまう。いつもなら、彼が目的地を決めていた。近場から、ちょっとした遠出まで。

 けれど、そのどれもが日帰りで、遅くなっても、夕方までには必ず私を自宅に帰してくれるのだ。

 もどかしく思ってしまうのは、物足りなくなってしまうのは、私が慣れてしまっただけなのか。

『もしかして、気分じゃない?』

 私の機嫌を窺うような、控え目な彼の声音。

 もし、彼が私の恋人だったなら、少しくらいの我が儘も、甘えも許してくれるのだろうか。

 そんな考えが、脳裏を掠める。
 
< 25 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop