夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「今、会いたいって言ったら、どうする?」
拒絶されるのを分かっていて、嶺奈は無理を言ってみた。けれど、返ってきたのは予想もしない答えだった。
『いいよ。どこで?』
──優しくなんて、しないで欲しいのに。
彼女でもない女の我が儘なんて、無視して欲しかったのに。そう思う心とは裏腹に、嶺奈は少しだけ嬉しくも思っていた。
二人が密会する場所は決まって、あの日のホテルだった。どちらかが示し合わせたわけでもない。けれど、自然と足が赴いてしまう。
あの日のことを想い出と呼ぶには、まだ早すぎて、ビターチョコレートを噛んだ時のような、ほろ苦さを感じる。
時刻はすでに、11時を回ろうとしていた。
二人はホテルのロビーで落ち合うと、言葉もないままに入室した。
彼がスーツ姿ということは、仕事終わりのまま、この場所に向かってくれたということだ。
疲れているのはずなのに、そんな素振りを一つも見せないのは、彼の優しい性格が関係しているのか。
「寂しくなった?」