夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

「ごめん。それだけは答えられない」

 嶺奈の視線をかわすように、彼は煙草を揉み消した。

「分かった。もう、聞かない」

 これ以上は聞いても無駄だと悟った嶺奈は、聞き分けの良い子を演じて、自ら話を終えた。

 良平さんは確かに優しい。けれど、どこか頑なで、一度決めた約束は決して違えないし、自身の秘密を口にすることはない。

 復讐という名の契約を交わす相手としては、とても相応しいのだろう。そして。いつか、私の心の迷いすら、全て見透かされてしまいそうで、怖くもある。

「明日は何処に連れて行ってくれるの?」

 嶺奈は話題を変える為に、良平に話し掛けた。

「そうだな……。嶺奈が行きたい場所がないなら、俺の独断で決めてもいい?」

「ええ、お願いするわ」

「ほんと、君って欲が無いね。もっと、振り回してくれて構わないのに。耐えることだけが、美徳じゃないよ」

 苦笑いを浮かべて、彼は言う。

 何に対しても我慢して、諦めてしまう、この癖は、きっと亮介と付き合い始めてからだ。

 我が儘を言ってはいけない。自立していなければいけない。そう、自分に言い聞かせて、本当の感情を押し殺してきた。

 その癖を、彼に見抜かれてしまうとは思わなかった。

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