夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 翌日の朝。

 結局、二人はホテルで一晩を明かした。
 無論、彼はソファで眠り、私がベッドを使った。

 そのことでも、少し一悶着あったが、話し合いに折れたのは嶺奈だった。

 手を出さないという約束を、律儀に守っている彼を見ていると、誠実すぎるような気もする。まあ、恋人でもない女を抱けるほど、易くはないという、彼なりの心の表れかもしれないが。

 けど、それでいい。情が邪魔になるくらいなら、最初から割り切っていた方が、お互いの為だ。

 午前10時過ぎに二人はホテルを退室した。

 彼の愛車に乗り込み、お洒落なブティックが列なる街中に到着すると、彼が指差したのは、高級宝飾店だった。
 
「行こうか」

 彼に促され、後をついて行く。

 ああ、なるほど。ここに来たということは、女性の意見が聞きたいということか。

 瞬時に察した嶺奈は、複雑な感情が心の内に芽生えた。

 すっかり忘れていた。

 自分のことで精一杯で、彼に恋人がいるのか、確認するのを失念していたのだ。

 自惚れもいいところだ。

 最初から彼は私のことなど眼中にない。

 何を期待していたのか。
 彼が頑なに約束を守るのは、恋人の為だ。

 ようやく、理解した。

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