夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

「でも、こんなの高すぎるわ」

「お願い。受け取って?」

 眉尻を下げて、懇願するような表情をされては、さすがの嶺奈でも無下に出来なかった。
 
「…………」

 そんな顔をするなんて、ズルい。そう思いつつ渋々に頷いた。

 店を出ると、彼はお腹が空いたと言い、近場のレストランを探すことになった。

 二人並んで歩道を歩いていると、嶺奈が突然立ち止まる。彼女の異変に気づいた立花は振り返り、問う。

「どうかした」

「亮、介……」

 嶺奈が見つめる視線の先には、二人と同じように並んで歩いている男女の姿が見えた。

 見間違えるはずがない。

 幾度も見た、あの後ろ姿。

 嶺奈を振り、浮気相手と一緒になることを選んだ、彼の姿を。

 隣で微笑んでいるのは、私の知らない女性だった。白いワンピースの裾が風に揺れ、さながら、純白のウェディングドレスのように見えた。

 あの人が──。

 亮介の結婚相手。

< 33 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop