夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 幸せそうに身を寄せあっている姿を見た瞬間、許せないという気持ちが溢れ出した。

 立花によって、癒え始めていた傷跡が、再び疼き熱を帯びる。

 見たくなかった。
 知りたくなかった。

 自分の意思とは関係なく、緩み出した涙腺が、じんわりと目頭を熱くさせる。

「行こう」

「…………」

 立花に腕を引かれるも、その足は地に根を張り、嶺奈を動かなくさせた。

「嶺奈」

 立花は普段より低い声音で、嶺奈の名前を呼ぶ。
 
「わ、私……」

「落ち着いて、嶺奈。俺を見て。俺だけを見て」

 パニックになり、過呼吸を起こしそうになる嶺奈を必死に宥める。

「今、君の目の前にいるのは、俺だから。彼じゃない」

 嶺奈は辛うじて動く視線で、彼を見上げる。言われた通りに、彼の瞳だけを見つめていると、少しだけ落ち着きを取り戻せたような気がした。

「帰ろう」

 立花は嶺奈の手をとると、繋ぎ合わせた。そして、二人が手を繋いだのは、この日が初めてだった。


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