夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
ホテルに到着し、二人は入室した。
部屋に入るなり、彼はバスルームに向かい、備え付けのタオルを手にして戻ってきた。
「ほら、身体冷えるから」
嶺奈にタオルを手渡し、自身も髪の毛の水分を拭き取っている。着ていたスーツも雨に濡れたせいか、色が濃くなり、白いYシャツが肌に貼り付いていた。
上着を脱ぎ、ネクタイを外したところで、彼は手を止めた。
一向に動こうとしない嶺奈を疑問に思ったのかもしれない。
「……脱げはいいの」
タオルを握りしめたまま、虚ろな瞳で嶺奈は短略的な発言をする。
「は? 何言ってんの、君」
「ホテルに来たってことは、そういうことなんでしょう」
それしか、考えられないんだから。
するなら、さっさと済ませて欲しい。
「……はぁ。冗談はいいから、シャワー浴びて身体温めたほうがいい」
彼女の発言に、彼は少し苛立っているようだった。
半ば、強引にバスルームに連れて行かれ、扉を閉められた。
きっと、早くしろ、ということなんだろう。
嶺奈は冷たいタイルを素足で踏むと、急に寒気を感じて、早速シャワーを浴びることにした。
濡れた服が身体に貼り付いて、正直気持ち悪かったから、丁度よかった。
頭上から熱いシャワーを浴びてみても、やっぱり意識は、はっきりしない。
私の心は壊れてしまったみたいだった。
何分間、そうしていたのか。
もしかしたら、もう少し時間が経っていたのかもしれない。
バスルームの扉を控えめにノックする音に気がつき、シャワーを止める。
出る前にふと鏡を見る。
メイクもすっかり取れてしまっていた。
「大丈夫? 溺れてないよね」
彼女を心配して、彼は様子を見に来たようだ。
「平気……。今出るから」
言葉短めに答える。
「あ、ああ。分かった」
安否を確認し終えると、扉から彼の気配が消えた。
嶺奈はバスタオルを身体に巻き付け、シャワーで乱れた髪の毛もそのままに、バスルームを出た。