夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 その隣で幸せそうに微笑んでいるのは、あの日見た彼女で間違いなかった。

 明るめの茶髪を綺麗にまとめ上げ、デコルテを出したウェディングドレスは、華奢な身体に良く合っていた。

 ──やっぱり、あの日の後ろ姿は、私の見間違いじゃなかった。

 これ以上、二人の姿を見ていられなくて、テーブルに視線を落とす。
 
 式が始まり、二人の名前が紹介される。

 そこで、初めて嶺奈は知ったのだ。
 
 亮介の隣に居る彼女は、岡田カンパニーの社長のご令嬢だということを──。

 岡田カンパニーは亮介が勤めている会社の名前だ。私は彼とは違う会社に勤めている。

 だから、知らなかったのだ。知りようもなかった。

 突然、目の前の道が崩されたような絶望感が、胸に広がる。
 
 何食わぬ顔をして、二人は同じ職場で浮気をして、私を嘲笑っていたのか。

 こんな事実、知りたくなかった。

 助けを求めたくても、良平さんは今、私の側にはいない──。


 披露宴は淡々と進み、お色直しの時間になり、二人は会場を一旦退席した。けれど、嶺奈は並べられた豪華な食事に手をつけることが出来なかった。

 虚ろな瞳で辺りを見渡す。

 ふと上げた視線の先、斜め向かいの席に、見知った人物がいた。

 どう、して──。

 相手も嶺奈の存在に気付き、目を見開く。

 その相手は……。

 見間違えるはずもない、──立花良平だった。
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