夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 例えば、道端に咲いてる小さな草花が、踏み潰されてるのを見ても、人々は平然と日常を過ごしてるのに、見ず知らずの私のことを思って、悲しんでくれる人がこの世にいるなんて、考えられない。

 それくらい、あり得ない話だ。

「別に信じなくてもいいけど、本当だから」

 下手な口説き文句。

 嶺奈はそう思った。

 誘うなら、もっと蠱惑的な言葉を囁くくらいのことはして欲しい。

 そっちに、その気がないのなら、私がそうさせるまで。

 彼をベッドへ押し倒したのは、もう後戻り出来ないと思ったから。そして、こんな状況を早く終わらせたかったからだ。
 
「なら、抱いて?」

「君は……それで、気が晴れるの?」

 意気地無し。彼を心の中で罵倒する。

 私って、こんなに性格が悪かったんだ。
 なんだか、笑いが込み上げそうになる。

「ええ……。あんなやつを忘れられるくらいに、めちゃくちゃにして欲しい」

「泣いてるくせに」

「え……」

 彼に言われて、気付いた。

 ポタポタと落ちる滴は、髪の毛の水滴ではなく、自分が流した涙だったのだ。

 精一杯の強がりだったのに。
 全て、見透かされてる。

「今日は疲れたと思うから、ゆっくりお休み。俺からは何もしないから」

 そういうと、彼は嶺奈の涙を親指で優しく掬い、角張った手で頭を撫でた。

 
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