夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 あの時は初春で、鮮やかな薔薇に囲まれ、甘い華の香りに誘われて、心を踊らせていた。

「なんで、ここに来たんだ?」

 亮介に問われ、嶺奈は返答に詰まる。

「分からない。けど、気付いたらここに来てた」

「俺も同じ。なんとなく、この薔薇園に来たくなってさ」

 きっと、懐古しているのは私だけじゃない。二人は無言のまま、薔薇を眺める。

「嶺奈は今、幸せか?」

「…………」

 さっきから、どうして私が答えにくい質問ばかりするのだろう。

「幸せよ」

 亮介に弱味なんて見せたくない。そう思った嶺奈は咄嗟に嘘をついた。

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