夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「前から思ってたけど、嶺奈って嘘つくの下手だよな」
「嘘なんてついてない」
「嶺奈が左腕を押さえるのは、嘘ついてるときか、不満を我慢してるときの仕草」
亮介に指摘されて、初めて自身の無意識の行動に気付く。
「……知ってたの?」
「何年、一緒にいたと思ってんだよ」
じゃあ、どうして、付き合ってたときに言わなかったの。嶺奈は亮介を責め立てたくなった。
「気付いていたのなら、言って欲しかった」
「悪い。昔から、そうやっていじけてんの可愛かったから。黙ってた」
「可愛い……? そんなこと、付き合ってたときは一言も言ってくれなかったくせに」
「だから、悪かったって言ってるだろ。恥ずかしかったんだよ、あの時は」
「……終わってから、そんなこと言わないでよ」
そんなことを今さら言うなんて、ズルい。
今まで知らなかった亮介の一面が、少しずつ垣間見えていく。
不器用過ぎるんだ、私も彼も。
「離婚調停することになった」
唐突な言葉を重ねる亮介は、どこか清々しい表情をしていて、嶺奈は複雑な心境を抱いた。
「それを私に言って、どうするの」
「別にどうもしない。ただ、嶺奈に言いたかっただけだから」
嶺奈が落とした視線の先に、以前彼が嵌めていた結婚指輪がないことに気づいた。
「浮気なんてしてないって言ってたよね? じゃあ、本当の理由はなんなの」
あの日、亮介は何を言いかけていたのか。ずっと気になっていた。だから、嶺奈は思い切って訊ねた。