夏の終わりと貴方に告げる、さよなら

「情けない話だけど、脅されてたんだ。美緒に」

 秋空を見上げ、亮介は昔話を語るように言葉を紡ぎ出した。

「美緒さんって、亮介の結婚相手の人よね」

「そう。美緒が俺の浮気相手でも構わないから、私と付き合って欲しいって言ってきたんだ」

 あんな可憐な女性に迫られたら、世の男性は断ることなんて出来ないのではないかと、彼女の姿を思い出しながら目蓋を伏せる。

「…………」

「もちろん、最初は婚約者がいるからって断ってた。けど、だんだんあいつの様子がおかしくなってさ。私と付き合ってくれないなら、お父様に言いつけるからって脅してきて……」

 それでも、亮介は頑なに断り続けていた。けれど、結婚せざるを得なかったのは、美緒の父親──つまり、岡田カンパニーの社長が、亮介に取引を持ち掛けてきたことが悪夢の始まりだったのだ。

 美緒と結婚をするか、会社を辞めるかの選択を亮介は迫られていた。

 ならば、会社を辞めると亮介は初めは決意していた。けれど、岡田カンパニーの社長は、この会社を辞めたら、次の会社へ就職出来ないようにしてやると脅してきたのだという。

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