夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 亮介は嶺奈との結婚式の資金を貯めるという目標があった。ただでさえ、日頃から嶺奈に対して、寂しい思いをさせている自覚が彼にはあった。

 だから、二つを天秤にかけたとき、僅かに揺れ動いたのは、資金調達という目標だった。

 美緒には悪いが適当なところで、結婚を破談にし、亮介は嶺奈の元へと戻る打算だったのだ。

 しかし、その予定が狂ったのは、美緒のとある一言が原因だった。

『私、妊娠したみたいなの』

 あり得るはずのない事実。亮介は必死に否定した。けれど、美緒のほうが一歩上手だったのだ。

 策士の彼女に周りを固められ、逃げ場を失った亮介は、結婚という道を選ばざるを得なかった。

「嶺奈に相談していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。けど、変なプライドが邪魔して出来なかったんだ」

 嶺奈は亮介から明かされた真実に、涙を溢し、嗚咽を洩らしていた。

 亮介が冷たくなった理由も意味も、全ては私のためだった。

 それなのに、私は亮介に捨てられたと勝手に勘違いをして、復讐をしようとした。

 そんな自分が酷く滑稽で、許せなかった。

「ごめんな、嶺奈」

 もう、あの日のように触れてはくれない亮介に、嶺奈は身が引き裂かれるような思いだった。

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