夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 亮介の本当の気持ちを聞くのが怖くて、逃げた私に彼を責める資格は一つもない。

「亮、介……」

 ──行かないで。

「だから、嶺奈には幸せになってほしい。俺が出来なかったから」

 ──待って。私は……私は。

「もう、一度……。私達はやり直せないの?」

 言ってはいけない言葉を口にしていた。

 良平さんが懸念していたのは、このことだったのか。彼は亮介の事情を知っていたのかもしれない。

 だから、あんなことを言って、私に何度も確認をして約束をさせたのだろう。

 私の心が揺らいでしまうことを分かっていたから──。

「……それ、どういう意味か分かって言ってる?」

 分かってる。分かってる。

 こんなの、亮介も良平さんもどちらも傷付けてしまう選択だってこと、分かっていて言っている。

 最低なのは──私だった。

「……分かってる」

「嶺奈にその覚悟はあるのか」

 責めるような亮介の冷たい言葉に、嶺奈は頷いた。

 もしも、あの日に戻れるのならば。

 私は──を選ぶ。

「引き返すなら、今だからな。よく考えろ」

 亮介は念を押す。それは、嶺奈に後悔をさせないための、優しさか。それとも──。

 罪を犯した二人のもとに、幸福はきっと訪れてはくれない。

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