夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「…………」
咄嗟に背を向けた嶺奈を、立花は腕を掴んで引き留める。僅かに痛むのは自分の心か、それとも掴まれた腕なのか、嶺奈には分からなかった。
「嶺奈」
「良平さんも仕事に遅れるといけないでしょ?」
彼が諭すように声をかけても、嶺奈は頑なに口を閉ざして、話すことを拒んだ。いつまでも変わらない彼女の態度に、諦めたのか立花は掴んでいた腕を離した。
「なら、今日は仕事早めに終わらせるから。待ってて」
「……分かった」
そう言い残すと、彼は足早にリビングを出ていく。リビングに独り残された嶺奈は、苦し気な表情を浮かべて、立ち尽くしていた。
──ごめんなさい。良平さん。
私は優しい貴方を裏切った。
胸中で何度、懺悔の言葉を並べてみても、彼には届かない。
良平さんは私が裏切ったと知ったら、どうするのだろうか。
酷く罵るのか。軽蔑するのか。
その時が来たら、私は彼のどんな罵詈雑言も受け止める覚悟は出来ている。