夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 嶺奈の異変に気づいた立花は、新しいグラスに水を注いで、彼女に手渡す。けれど、うまく手に力が入らず、グラスを掴むことが出来なかった。

 その様子を見かねた彼は、自身の口に水を含むと、嶺奈に口移した。お互いを介して流れていく水を素直に受け入れる。
 
 飲みきれずに零れた水が、唇の端から伝い落ちていく。

 嶺奈がゆっくりと目蓋を開くと、彼はそっと視線を外した。

「……それは、俺を煽ってるの?」

「どういう、意味……?」
 
 すっかり酔いの回った嶺奈は、彼の言葉の意味をすぐには理解出来なかった。

 アルコールによって紅潮した頬に、熱を帯びたような嶺奈の視線は、彼の感情を揺さぶった。

 こんな風に、何も考えられなくなれば、私は楽になれるのだろうか。感情のままに動けたら、どれだけ良かっただろう。

 嶺奈は右手を差し出して、彼の顔に触れた。

 私が好きなのは、亮介なのか。良平さんなのか。それすらもよく分からなくなってくる。

 全部、忘れてしまえれば、誰も傷付けに済んだのに。

 彼に腕を掴まれ、ソファに押し倒される。

 抵抗することが出来なかったのは、きっとアルコールのせい。

 そうやって、自分を正当化して、重なる唇を嶺奈は受け入れた。
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