夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「仕事が忙しくて、嶺奈に寂しい思いをさせたから、クリスマスは二人で楽しみたいなっていう、俺の密かな願望。だから、叶えさせて?」
ほら、またそうやって甘える。
私が甘えられることに弱いと知っていて、お願いされたら断れないことも分かった上で、良平さんはこの話をしている。
彼もまた策士家の一人だと思う。いつも心の隙間に、するりと入り込んでは、嶺奈の遠慮も拒絶も、全てなし崩しにしてしまう。
「分かった。楽しみにしてる」
彼の提案を無下に出来なくて、嶺奈は了承した。
「プレゼントも用意するから、楽しみにしてて」
良平さんの笑顔を見る度に、心が軋んで酷く痛む。
私はとても残酷なことをしている。
その自覚があるのに、彼を傷付けるのが怖くて、亮介のことを言い出せずに、今日までずるずると過ごしてきた。
傷付けないために、傷付けるような嘘をついては、自己嫌悪の繰り返しで、矛盾していると、自分でも分かっているのに。
この苦しさは、いつになれば解放されるのだろう。
けれど、やがて事実を知ることになる彼の苦しさに比べれば、この苦しみは掠り傷でしかない。
だから、私は最後の日まで耐えるしかない。
今年も後少しで終わりを迎える。
残り一枚になった壁掛けカレンダーを眺めて、嶺奈は物思いに耽る。
私が30歳を迎えるまで、残された時間は約八ヶ月しかない。来年の八月、私はどんな日々を過ごして、私の隣には誰がいるのだろう。
きっと、良平さんの隣に私は居ない──。