夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
 一呼吸を置いて、ようやく絞り出した亮介の声は、あまりにも低くて聞き取り難かった。

「……え?」

 微かに聞こえた言葉を脳裏で繋ぎ合わせる。けれど、信じられなくて嶺奈は呆然とした。
 
 寝耳に水とは、まさに今のこの状況をいうのか。期待していた答えとは違う言葉に、嶺奈は自身の耳を疑った。

 どうか、聞き間違いであって欲しいと。しかし、その願いもすぐに撃ち砕かれてしまう。

「色々……あってさ」

「そう……」

 相づちを打つので精一杯だった。

 色々って何? 離婚するって、あんなに意気込んでいたくせに、期待してたのは私だけ?
 
「悪い」

 亮介は重い沈黙を破るように、謝罪の言葉を述べる。

「仕方ないわ。簡単に離婚できるような相手じゃないって、亮介言ってたでしょ」

「それは……そう、なんだが」

 どうして、そんなに歯切れが悪いの。
 どうして、私の目を見て話してくれないの。

 俯いて視線を合わせようとしない亮介の曖昧な態度に、徐々に苛立ちが募り始める。

 やっぱり、あの日の言葉は嘘だったの?

 だったら、どうして私に気を持たせるようなことを言ったの?

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