夏の終わりと貴方に告げる、さよなら
「いい……。最初から分かっていたことだから。亮介は、本当は美緒さんと離婚する気はないんでしょ」

 嫌な妄想が脳裏を占める。

 本当にどうしようもないくらい、私は馬鹿みたい。
 
「違っ! 俺は……」

「違うなら、理由を教えて。このままじゃ帰れないわ」

「…………」

 嶺奈の強い口調に、亮介は全てを拒絶するように頑なに口を閉ざす。無言は肯定の証だった。

 連絡が無かった数ヶ月の間に、彼に何かがあったのだろう。そして、それは亮介の意思を揺らがせるのには、十分な時間だったに違いない。

 けれど、揺らいでいたのは私も同じで、自分のことを棚に上げて、亮介を強く責めることは出来なかった。

 どうして、私達はこんなにも意思が弱いのか。他人に絆されてばかりで、自分の意思では何一つ決められない。

 似た者同士と言えば聞こえはいいが、端から見れば、酷く滑稽に映るだろう。

「美緒に権力を盾にするのは辞めろって言ったんだ。そしたら、私だって本当はこんなことしたくないって返された」

 ようやく、重い口を開いた亮介。けれど、言葉の意味が分からなかった。

 こんなことって、亮介に無理矢理結婚を迫ったこと? それとも他の理由があるの?

「本当に好きな相手に、少しも振り向いてもらえない私の気持ちが分かる? 周りから、社長令嬢だって遠巻きにされてた私の気持ちが、貴方に分かる? 美緒はそう言ってた」

 美緒さんの言っている言葉の意味が、私にはどうしても理解出来なかった。

 社長令嬢の権力を振りかざしたのは、他でもない彼女本人だ。

 だから、亮介は結婚せざるを得なかったというのに、どうして彼女はそんなことが言えるのだろう。

 
< 99 / 145 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop