BeAST
皇の背中を押して保健室を出る。
「お前、あの先生と仲良いんだな」
廊下に出るなり、俺に話しかける皇。
……俺に興味持たなくていいんだけどな。
多分、耀介もわざと興味を持たせるような言葉選びをしていた。
「さあな」
俺は皇とも柿谷とも仲良くしようなんざ思ってない。
ただ静かに見ている。
「普通、下の名前で呼び合わないだろ。」
「ガキの時から知ってる。ただそれだけだ」
ハイカットのスニーカーを下駄箱から取り出す。
皇は高そうなローファー。
育ちのいい坊ちゃんだな。
何が楽しくて殴り合いなんか。
「お前は柿谷と仲良いんだか悪いんだか分かんねえな」
隣に立って横目で見上げれば、暗く淀んだ瞳が俺を睨みつけていた。
「言われたくない言葉だったか?まあどうでもいいが、坊ちゃんにその傷は似合わねえよ」
ガッと胸ぐらを掴まれる。
俺でも175はある。でもコイツは185もありやがる。
ガタイも違えば、俺は喧嘩なんぞしないしな。
男の力には勝てない。
「いつまでも殴り合いしてる気か?」
そんな顔で女に凄んだら、大抵泣くぞ、皇くんよぉ。
俺に感謝しねえ罰だ。こんぐらい許せ。