BeAST
ドン、ドン
と、クラブの中は地響きのように爆音が鳴り、耳元をかすめる声だけが聞こえる。
丞さんは俺の手を握って、スルスルと奥へ歩いていく。
ジロジロと、あまり気分のいいものじゃない視線と、丞さんへのねっとりとした視線。
カウンターまで歩いて、やっと丞さんが立ち止まり、握っていた手を離して、するりと俺の腰を抱く。
「君が指定したからここに来たけど、あんまり治安のいいクラブじゃないから、さっき言った通り俺から離れないで」
耳元でそう忠告する丞さん。
「おー、丞か!」
カウンターの奥で、ドリンクを作っている男の人がこちらにやって来る。
「久しぶりじゃないか?うちに来るなんて」
「はは、お久しぶりです。この子が来たいって言うから連れてきた」
緑髪の短髪。
歳は40代ぐらいかな。
ふわっと笑って、頭を下げる。
「へえ、綺麗な子だな」
俺への視線が不快じゃない。
多分、俺には無害な人だ。
強面だけど。
「気をつけろよ、分かってるとは思うがイカれたやつも来るから」
「うん、ありがとう。」
丞さんとその人は少し会話を続けて、ドリンクを頼んでもらった。