BeAST



地声で答える。


「…へ、えっと、来ないって、なんで」


「丞さんに会いたくないから?じゃないっすかね」


足音が近づいてくるのを分かっていて、そう答える。


「……っ」


何か俺らに事情があると察した葉賀さんは、何も言わず、準備を進めてくれる。



「じゃ、メイク先ね」


部屋に入ってきた丞さんにそう言われて、マスクをとって目を閉じる。


化粧品独特の香りと、時々優しく触れる丞さんの骨ばった手。


次々と進んで、


「ちょっと目線下ね」


そう言われて、銀色のそれが近付いてくる。


「うお……人にビューラーされんの怖」


「ん?じゃあ、自分でやる?」


「いや、丞さんやって。」


「いいの?」


「ん、まぶた挟んだら殺す」


「俺これでもプロなんだけど」


「信用ならん」


「ひでえ」


そんなふうに普通に話せてる。


「ふふ」


葉賀さんが笑う。


「あっ、すみません、つい。仲良いんだなって思って」


仲、良いか。

クラブでも結構言われたな。


「丞さんって軽いのに、仲良い女そんなに少ねえのか?」


「軽いのにって余計じゃね?…まーそうね。女の子は一定の距離保っておかないと勘違いする子もいるからね」


「あー、分かる気がする。俺も学校でそうだわ」



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