BeAST
服装の違う、支配人のような人が頭を下げて、ああ、とだけ答え、ズンズン歩いていく柊吾。
凄いな。
スタッフの人達、必要以上にこっち見ないし、動きに無駄がない。
太客、ってやつ?
…分かんねえな、金持ち。
「紅璃…?」
パチッと目が合った人に、そう声をかけられる。
……え?俺?
その人は、かなり歳上。
40代ぐらいの男の人。
オーダーメイドのスーツを着て、隣には綺麗なご夫人さん。
…いや、これは想定外すぎる。
「えっと、紅璃?さんでは、ないですけど…」
「あ、ああ、そうだよね。申し訳ない。知り合いの若い頃にそっくりで思わず。申し訳ない」
そう言って苦笑いをするその人。
「…待って。あなた…、確か、灯織さんじゃ、なかったかしら」
……どういう知り合いだ?
分からん分からん…っ!
こんな金持ちの知り合いなんて……
いや、耀介繋がりぐらいしか。
…だとしても、この状況ではなんで知ってるんですかなんて聞けねえしな。
「ごめんなさい、人違いかと」
まゆを八の字にすれば、スッと奥さんの方は後ろにいる柊吾を見て、ニコッと笑った。
「そうね、人違いね。ごめんなさいね、引き止めてしまって」