BeAST
「興田春。あの子はずっと、ここ2年くらい、お前を苦しめ続けてくれてる。まさか、屋上から飛び降りるとまでは考えてなかった。お人好しの考えは、理解できない」
ダンッ
テーブルを拳で殴る。
慎矢じゃない。
皇だ。
「ゼン、お前も健気だね。興田春のことなんて、どうでも良かったはずなのに、こんな馬鹿な弟のために悪役になってさ」
皇は、知ってる。
「……灯織も、兄貴も、その悪役っつーの、なんなんだ」
戸惑いながらも、真っ直ぐ柊吾を見る慎矢。
「興田春は、お前に心底惚れてた。ただそれだけなら、嫌がらせ程度で終わるつもりだった。けどあの女は、俺の遊びに気が付いた。俺の遊びに気がつくのは、親父だけでいいのにな」
「遊び……?」
「だから、お前の大事なもん奪って、素知らぬ顔してお前のこと慰めて、与えてやる。その遊びに、あの女は気が付いた。泣いてたよ。なんでそんなことするのって」
感情の乗らない声。
「言っても、理解できないと思うよってちゃんと説明したよ。俺だってそこまで非道じゃない」
「十分非道だよ」
クスッと思わず笑ってしまえば、
「理解できるのは、君ぐらいだ。仕方ないだろ」
「そうだね。ハルには一生分からない。知ろうとする方が馬鹿だ」