BeAST
「……だから、いつもより酷くしただけ。お人好しで、誰でも頑張って救おうとする偽善者は、1度だけ、たった1度だけ深めの傷をつければ、自分からその傷を痛めつけてくれる。」
じっと歪んでいく慎矢の顔を見つめる柊吾。
「……どういうこと…どういうことだよ、兄ちゃん」
壊れてしまうかもしれない。
洗脳されすぎてる。
いつの間にか、体が動いて立ち上がる。
「ダメだよ」
柊吾に止められる。
拳を握り締める。
……そうだ。
これで、慎矢は、親友だった皇のことも、恋人だったハルのことも信じられる。
ただ、兄貴に裏切られるだけ。
「許そうとしなくていいからな、慎矢」
それだけ言って、座る。
「嫌がる興田春の腕を縛って、服を脱がせて、泣きじゃくる興田春の口を塞いで。意識失った興田春を犯した」
一定の速度で、抑揚もなく、ただ起こったことを説明した柊吾。
その表情は、とても人だとは思えなかった。
慎矢は目を見開いたまま、涙を流す。
皇は拳を握ったまま、顔を歪めて俯く。
「そんなこと、慎矢に言えるわけがなかった。だから、皇に心変わりしたと見せかけた。慎矢の親友である皇には全てを話した。皇も柊吾のことを警戒していたから、起きたことを全て信じた。そして、慎矢に伝えられるわけが無いと判断して、ハルに協力した。」