BeAST
柿谷慎矢side
「コーヒーで、いい?」
食事の片付けをしている兄貴がそう聞く。
あの日、ハルのことを聞いてから、初めて会う。
兄貴は、どこか、あの頃より雰囲気が柔らかくなった気がする。
あの頃は何かに、ずっと囚われているようで、時折俺を見下ろす目が怖かった。
その、モヤみたいなものがもう、すっかり消えている気がする。
「ん、さんきゅ」
「いいえ」
「…ずっと、アイツいるのか」
「うん。バイトの日以外はいる」
「兄貴が、来いって言ってるのか」
「んー。どうなんだろうな。流れで」
そう言われて、つっこむ気もおきないのは、二人の間の雰囲気が独特で掴みどころのないものだと感じるから。
コト、とマグカップが置かれる。
「今日は、何」
じっと兄貴に見られると、未だに緊張する。
「ハルには、説明した」
「そう」
淡々と答える兄貴。
まだ、正直受け止めきれてない。
「学校のやつらに、灯織の現状を説明した。その上で、そいつらも、ハルも俺も漸も。お前と灯織が一緒にいること、やめさせたいと思ってる」
そう話せば、兄貴はマグカップを置く。
「それで、俺に、灯織を捨てるように頼みに来たのか」