BeAST
ぶるぶると体が震える。
情けなく、その震えを止められない。
今は目の前のこいつにそれを察されないように、すましたフリをするのに必死だ。
「どうだ。話を急く気は失せたか」
環のドナーについては、聞きたい。
けれど、俺の過去については、
「ずっと目を背けてきた、いや、記憶を消して振り返る道すら自分で排除した話。それをお前は聞きたくないんだろ?」
はあ、はあ、と肩で息をする。
「失礼致します」
その、店員の声で我に返る。
「まあ、まだディナーまでは時間がある。ゆっくり話そうか」
余裕そうにコーヒーを口にする天馬。
「まず、環のドナーについてだ。」
「見つかったのか」
「ああ」
ぶわっ、と鳥肌が立つ。
やっとだ。
やっと……
「こんなに早くドナーが見つかるのは稀だ。数年待機するのが通常。運が良かったとしか言いようがない。」
そこでやっと、他人の心臓なのだという事実に恐怖が襲ってくる。
環は、俺の何倍怖いのだろう。
「費用は約束通り肩代わりする。お前、環に会わないと言ったそうだな」
ズキズキと心が悲鳴をあげそうなほど痛む。
「まあお前の勝手だが、あれだけ救いたがっていた人間を救ったあとは放置か。少しの間ぐらい、一緒にいてやるのが筋じゃないかと俺は思うがな」