BeAST
「この通り、今は口を聞きたくない時間のようでな。」
「……灯織、さん、手が……」
淡々と話す天馬さんに視線を移した時、葉賀が震える声で叫ぶ。
……灯織の手から、血が滴り落ちていた。
「ああ、暴れて自分で切ったんだ。軽く手当ても頼めるか?」
耀介の家が経営する孤児院の1人。
ただ、それだけの女の子。
何故、その女の子が、耀介の兄貴連れられて暴れるんだ。
葉賀が灯織の腕を急いで取り、傷口を見る。
腕に幅5cmほどの傷。
「早く手当てしないと、傷が残っちゃいます」
葉賀の手が震えている。
けれど、天馬さんの存在感に圧倒され、そこから動けないでいる。
「…っ」
そんな葉賀の手をもう片方の手で包む、灯織。
「怖がらせてごめん。本当に俺が暴れただけだから。……床、汚してごめん。」
葉賀の手を解いて、そして、俺を見て謝る。
その顔は、いつもの灯織じゃなかった。
温かさを一切感じない瞳。
俺は……
「俺は外に出ていよう。では」
最後に、俺を見た気がした。
俺は天馬さんを見る余裕はない。
ただ、灯織から目が離せない。
「いつもの部屋に」
和さんはいつも通り、灯織に話し、灯織はするりと俺の横を歩いていく。