BeAST
他のスタッフが急いで床の血を掃除する中、俺はそこから動けないでいた。
俺があの子に会わない間に、何が、あったんだ。
柊吾と一緒にいることは知っていた。
けれど、それだけで、あんなふうに……
「丞、仕事だ。しっかりしろ」
和さんの言葉にハッとする。
グッと拳を握りしめ、部屋へ向かう。
俺が動揺してどうする。
俺の頭の中にいるのは、ただの女の子。
恋も知らなかった、女の子。
「腕、痛いでしょ」
彼女は椅子に座っていて、葉賀が手当てをしている逆側に俺は膝をつく。
「冬で良かったよね、夏は目立つ。」
笑え。笑うんだ。
「今日は、どんなふうにする?」
この子が傷ついて、苦しんで。
俺を振ったこの子は、俺を遠ざけようとしただけだと分かってる。
一生懸命、俺のことを考えてくれたこの子のために、どうすることが最善か、分からなかった。
俺は古傷を守ったんだ、結局。
この子の言う通りにしてあげる。そんな言い訳をして。
26にもなって、大人げない。
情けない。
「ドレス、何色なんだろうな?そろそろ来るって言ってたけど。」
平気なフリをしろ。
じわり、じわりと、無表情の女の子の瞳が潤んでいく。
「その色味に合わせてメイクと髪のスタイリング、考えようね」